sonicwalk Project

ソニックウォーク プロジェクト

東京藝術大学 古川研究室 + (株)COTON

プロジェクトの概要

sonicwalk(ソニックウォーク)は、私たちの周りにある森、公園、庭園、街並みなどの⾵景の中に仮想の⾳オブジェを置き、その⾵景と⾳を⼀緒に楽しむプロジェクトです。スマートフォンの衛星測位システム(GPS、みちびきなど)を使って実現しています。参加方法はスマートフォンのWebブラウザーでsonicwalkのページへアクセスするだけです。実際に音のオブジェが置かれた場所(例えば上野公園など)に行き、オープン型イヤホンを着けて散歩をしてみてください。あなたの位置、動きにより、目の前に広がる現実の風景とともに、そこに配置されている仮想の音のオブジェから音や音楽が聴こえてきます。

sonicwalk Project

sonicwalk is a project that people can enjoy the landscapes and sound, by virtually placing sound objects in the landscapes that surround us, like forests, parks, gardens, city etc. This is possible by using smartphones’ satellite navigation systems such as GPS and Michibiki (QZSS). To take part in this, simply access sonicwalk using the web browser on your smartphone. Try walking in the area with sound objects already places (e.g. Ueno Park) wearing open-back earphones. Accompanying the real landscape in front of you, you will be able to hear sounds and music according to your location and movements. Gives new meanings to the landscape by connecting the environment and sound. Re-discover your living environment and history by creating deep relationships between, location, history and the body. We hope for the viewers to find themselves through this experience too.

✦ 環境と⾳を結びつけることを通して、⾵景に新しい意味を与えます。
✦ 場所やその歴史との⾝体的な深い関わりを通して私達の⽣活環境、街を再発⾒します。
✦ そしてそのことは私たちが自分⾃⾝を再発⾒し、全体性の回復へとつながる契機となるかもしれません。


sonicwalk システム

sonicwalkは、東京藝術大学古川研究室と(株)COTONが共同開発したシステムSWS (Sonic Walk System)を技術的なベースとしています。これは衛星測位システムを利用し、精度の高い位置情報に基づき音・音楽を生成するあたらしい音環境システムです。SWSのために作られたアプリケーションは、個人が持つスマートフォーンから利用が可能で、さらに複数の端末を連携することもできます。昨年度の11月から、従来のGPSの空間分解能(誤差10m程度)をはるかに超える、準天頂衛星システムみちびきが使用可能になりました。sonicwalkではこの技術導入することで実現する、精密かつ繊細な未知の仮想音空間体験の可能性の検証も行っていきます。現在、古川研究室を中心に実験的な運用を始めており、ライセンスは東京藝術大学古川研究室と(株)COTONが管理します。

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ソニックウォーク 研究報告

https://youtu.be/HMlpx7ZRXfc  (報告ビデオ)

 古川聖 (東京藝術大学)

はじめに:
2018 年11 月に準天頂衛星システム“みちびき”の運用がスタートした。私たちは既存のGPS とこれらの新測位システムの技術を利用し、風景と音を一緒に楽しむプロジェクト“ソニックウォーク(sonicwalk)”の準備を2018年度よりはじめ、中山隼雄財団の助成を受け、2019年3月よりこのプロジェクトを開始、展開している。助成を受けた研究自体は、2020年2月末をもって終了したが、この研究で得られた成果をもとに、このプロジェクトは継続されている。これまでに複数回の一般公開イベントを行った。 
( https://iloveyou.geidai.ac.jp/project09/https://amc.geidai.ac.jp/exhibition/#artist_list)(https://coton.tech/amc2019/?manual=1)

プロジェクト概要:
2019年3月よりこのプロジェクト“ソニックウォークのアプリケーション開発をスタートし、改良を重ね、8月ころにはほぼプロトタイプが完成した。プロジェクトはこのアプリケーションを用い、私たちが生活する都市空間、公園、庭園、森などの風景の中に仮想の音のオブジェクトを置き、その音のオブジェクトで満たされた現実の空間をスマートフォンと共に歩き回ることで、空間を楽器として身体・空間・音が一体となったサウンドアートの体験をするというものである。このプロジェクトでは、既存の測位システムとみちびきとの併用により得られる高い空間分解能により可能となる、私たちにとって未知の精密かつ繊細な仮想音空間体験の検証と感受性の開発をも視野に入れ、私たちの環境、生活空間への音の付加を通して、風景や自然、文化的空間へのあたらしい意味づけを行い、その場所や歴史と身体的に深く関わり、私達の生活環境を再発見する契機としていく。

1. プロジェクトの背景
このプロジェクトは古川が2006~8 年度に科学研究費を得て行った、池泉回遊式庭園内の空間体験を音楽体験と比較する研究、つまり庭園という静的な構造の中を歩き回ることで、その構造を順次、シーケンスとして体験することと時間芸術である音楽の聴取体験とを比べた研究に遡る。(古川,2006),図1 その後、古川は建築家の藤井晴行らと研究を継続し、音楽、空間認知、言語などは表現のレベルにおいてモダリティーは異なるが、深層レベルにおいてその美的秩序や構造認知の共有構造を持つとの仮説の下、空間認知と身体と音にまたがる研究を進めてきた。近年では空間体験における、場所性、つまりその土地が持つ歴史、条件などの人間の文化のレベルをも射程にいれて研究は続けられている。

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図1: 池泉回遊式庭園、等持院のゾーニングと歩行経路

拡張現実技術を利用した位置情報ゲームは“INGRESS”、“ポケモンGO” をはじめ様々なアイデアが試みられてきた。これらのゲームのように3次元グラフィックを現実空間に重ね仮想配置するもの以外に、音を現実空間に重ね、仮想配置するようなプロジェクトもサウンドアートのコンテクスト中で複数行われてきた(G.Klein,2013,Luo ng Hue Trinh,2014, L.Vuitton,2011)。しかしそれらのプロジェクトには技術の前提となる測位精度(誤差10 メートル程度) に起因する表現上の限界があり、本プロジェクトが目指す、音と場所、身体を綿密に関係付けた、いわば楽器のような精密な音空間構成とは質的、内容的に異なったものであった。そして本プロジェクトはポケモンGO のような拡張現実技術を利用したゲームが社会に与えた質的なインパクトに関して国内外で深く行われている議論(神田孝治,2018) などの動向も視野に入れながら、このあたらしいタイプの体験が私たちにもたらす様々な表現の可能性、アスペクトの広がりを検討しようとするものでもある。

2. プロジェクトの特徴
技術とアートの文脈の両面から、プロジェクト・ソニックウォークの特徴を下記に示す。

2.1. 高精度の位置測定と音空間構成
2018 年11月に全球測位衛星システム(GNSS)の一種である準天頂衛星システム“みちびき”の運用がスタートした(脚注:みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト- 内閣府 https://qzss.go.jp/)。これに対応した端末を利用することで精度の向上が期待され、専用の機器を使用すればセンチメータ級精度での位置測定も可能となる。現在流通するみちびき対応スマートフォンは既存の測位システムと併せて測定を行うものであり、実測で1m~5m 程度の誤差にまで抑えられることを本プロジェクトの検証で確認している。みちびきに先行するGNSS にはGPS やGLONASS、Galileo などがあり、みちびき非対応スマートフォンではこれらを総合的に利用することができるが、誤差10m程度の精度に留まる。既存の拡張現実技術に応用したゲームの多くがこのような精度を想定したものであるのに対し、本プロジェクト“ソニックウォーク”はこの旧来のGPS 等の測位方式を超える精度が可能とするあたらしい技術を用い、従来のものとは内容的に異なった表現を探索する。

2.2. あそびと空間楽器
本プロジェクトは我々の生活空間と仮想空間に置かれた音を重ね、音と音、音と場所を関係づけ、いわば、街や風景などの都市空間(例えば渋谷の街角から、龍安寺の石庭のような美的空間も想定)、その空間自体が楽器となるような、あたらしい“音と身体と空間の遊び”の提案を行う。

2.3. 身体性と自己と世界
空間を深く体験することは、不可避的にその場所のもつ記憶、歴史、文化、そしてその社会の現在と未来へと向かい合うことでもある。本プロジェクトは感じること、把握すること、理解することを通して、場所と身体のつながりを確認し、自己の確認、全体性の回復へとむかうアートの総合的な体験のデザインをも志向している。

2.4. 未体験の空間、感受性の開発
本プロジェクトの最も特質的な点は「やってみなくてはわからない」という試みを組織的、多角的に実際に行ってみる点にある。しかしそれは単なる技術開発ではなく、“みちびき”によってもたらされるあたらしいテクノロジーの持つ可能性がもたらす、ゲームだけでなくアートや私達の生活空間や生活自体を広げ、意識さえも変えてしまうかもしれない、というあたらしい事態の探索でもある。時間分解能を除けば、数センチ程度の空間分解能はこれまでは室内のゲームなどの空間でセンサーを使ってのみ可能だったのだが、“みちびき”のよって、私達の(野外の)実空間全体にこの可能性が広がる。このような精密な野外空間の音デザインは私達にとって全く未知の領域であり、あらたな意識、感受性の開発であるともいえる。

2.5. 電子音響音楽のあたらしい表現媒体として
本プロジェクトを行なっている古川は電子音響音楽の分野でも作品発表を行なってきたが、このプロジェクトの出発点のひとつは電子音響音楽の表現形式、方法に関する表現上の発想にあった。電子音響音楽は現在、多くの場合はコンサートホールなどの室内でスピーカーを配置して行うものが多いのだが、古川は現代のあたらしいメディアを使ったほかの方法の模索をつづけてきた。“ソニックウォーク”を使うことによって電子音響音楽の表現をコンサートホールの外に出し、身体や場所と関係付けることにより、あらたな表現が開かれ、生まれることに大きな期待をよせている。

3. アプリケーション “sonicwalk”
アプリケーション“sonicwalk”は東京藝術大学の古川研究室とcoton Inc. により共同開発されている。技術開発、アプリケーションの実装は濵野峻行、長嶋海里、監修は古川聖が行なっている。“sonicwalk”はおもに個人が持つスマートフォーンでの利用を想定しており、現在、古川研究室を中心に技術開発とその運用と展開可能性の検証が続けられている。“sonicwalk”の基本的な仕組みは、サウンドマップと呼ばれる地図上に音のオブジェクトを複数配置し、その地図の場所を実際に移動すると音のオブジェクトとの距離によって聴こえる音が変化するというものである。以下、詳細を説明する。

3.1. ユーザアカウント機能による個人制作
このアプリケーションでは個人が自分のスマートフォンを用いて自由に制作できるよう、ユーザアカウント機能を提供している。アプリケーション使用にあたって、ユーザは開始時にログインをする必要があり、Googleアカウント、E-mail アドレス、Facebook やTwitter アカウントなどを使って認証を行う。

3.2. サウンドマップの作成
あたらしいサウンドマップを作成すると自分がいる場所の地図が開かれ、人型のアイコンによってユーザーの現在の正確な位置が示される。赤いプラス印のカーソルで音のオブジェクトを置くべき位置を決める。(図2)

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図2: サウンドマップ上に示される、現在位置と音オブジェクト、
上野公園噴水周りに音を配置

3.3. 音のオブジェクトの作成と編集
SELECT ボタン(図3)により自らのストレージアカウント(例えばGoogle Drive やDropbox)に用意したオーディオファイルを地図上に配置した音のオブジェクトにアサインする。ADVANCED のページ(図4)で詳細な音の設定、例えば距離によって変化する音量の割合などを決める(50m の設定であれば音のオブジェ

クトの置かれた位置から離れるに従って音は弱くなり、50m 離れた地点ではほぼ聞こえなくなる)。音のオブジェクトはもちろん同時に、何個でも置くことができ、距離に応じて異なる音量で繰り返し再生される。スマートフォーンを持ちながら野外空間を移動すれば、音風景はどんどん変化することになる。